こんにちは、寝袋!です。
初夏の2000峰での話です。
その日は天気予報は良かったのに、実際はガスで真っ白でした。
「まあ、山にはよくあること」
とあきらめて、黙々と登っていきました。
人がいた
駐車場には他に車があったのですが、なにしろ真っ白で前も後ろも人の気配が感じ取れません。
そんななか、前方のガスのなかに人影が見えてきました。
どうやらガスの中、岩に腰を下ろして休憩していた様子です。
挨拶を軽く交わして、先に進みました。
しばらくいくと吹きっさらしのコルにでました。
すると、それまでも多少強かった風が、まさに暴風として体にぶち当たってきたのです。
体はふらつきますし、キャップが飛ばされそうになるし、寒いしで、岩陰を見つけて座り込んで、レインウェアのジャケットを着込みました。
暴風の中
そうしていると、先程の人が下から上がってきました。
「じつはさっき一度ここまで来たんですが、あまりに風が強くて、先に進んでいいものかと悩んで、他に誰も居ないので帰ろうとしてたんです」
ああ、そうだったんですね。
たしかにそこのコルは両脇が残雪で真っ白で、ガスのために下がどうなっているかも分からないし、横風で飛ばされそうになって進むには怖かったはずです。
初めての道ならなおさらでしょう。
「私は先に進みますが、よかったら着いてきます? ダメだったら帰りましょう」
油断すれば体ごと倒されそうな風ですが、安全に進めないほどではないと判断しました。
自分史上最高の風よりも下回っていますし、(その人には未知でも)じつはそれほど滑落の危険もない場所だったので。
コルを抜ける
時々立ち止まって風に耐える必要はありましたが、私たちはなんとかコルを抜けました。
やはりコルというのは風の通り道なので、特別風が強い場合が多く、コルを抜けると数段風は弱まりました。
不安なところを越えたのに、いつまでも一緒に行くのも違うかなと思い、
「私ここで一服してから行きますので、どうぞ先へどうぞ」
と声をかけました。
真っ白な山頂
そこから1時間ほどで、山頂に立つことができました。
風は相変わらず強く、ガスで真っ白、な~にも見えません。
多少風が弱そうな面の岩陰で座って、しばらくじーっとしてました。
10分ほどいたでしょうか。
そのなかで、瞬間ガスが切れて景色が見れたのは合計5秒ほど?
「うん、今日はこんなものか」
と私は降りることにしました。
すれ違いに登ってくる人に、
「上はどうでしたか?」
と聞かれ、
「さっきまではダメでしたが・・・この先はどうでしょうね。風は強かったですよ」
と答えながら降りてきました。
登山あるある?降り始めると天気がいい
途中、登りで目をつけていた場所で、お湯を沸かしてコーヒーとパンを食べました。
すると、みるみるうちにガスが晴れていって、風もなくなり、天気予報通りの快晴となったのです。
悔しいですが、仕方がありません。
自分が行く先は雨、振り返ると晴れ、というのは登山あるあるですよね。
これから登っていく人は、
「超快晴!さっきまでガスって言ってたけど本当?カワイソ」
と思ってるかもしれませんね(笑)
登山口で
下山して装備を片付けていると、例の人が降りてきました。
「いやあ、ウソみたいにいい天気ですね。悔しいっすわ」
と言うので、笑ってうなづくしかできませんでした。
この日、夜明け前から登っていた私たちは、暴風とガスに見舞われ、朝から登った人は絶景と出会うことができました。
きっと9割の人が、一切苦労せず、怖い思いもせず、笑顔だったと思います。
私達といえば、緊張感でこわばる顔を風でぶっ叩かれながら、必死な形相だったのに(笑)
でも、面白い登山でした。
その人はガッカリしてたけど、きっと今日の経験が活きますよ。
次にあんな風に出会ったとき、きっと一人で乗り越えられると思うんです。
大げさに言えば、あの日のあの山で、一番いい経験をしたのは、きっとその人でした。
風で立ちすくみ、一度降り始め、人が登ってきているので勇気づけられ、なんとか乗り越えられたんですから。
いつか晴れた日にその山を登って、景色を見てくれればと思います。