こんにちは、寝袋!です。
前半の記事からの続きです。
山で遭難者の遺体を発見して、なんとか下山して、報告するところまで書きました。
続きを書いていきます。
まずは捜索隊に
私が出会った捜索隊の方々は、本州の某大学の山岳部OBたちでした。
どうやら昨秋、お仲間の1人が季節外れの吹雪に見舞われて、遭難したということでした。
当時の捜索では発見できず、冬が終わって雪が融ける頃を見計らい、再び捜索隊を結成したということでした。
私は、写真を提供したり、地図で場所を説明したり、わかるかぎりの状況を説明しました。
捜索隊の地図を見ましたが、この山域の斜面・沢筋を、日替わりで捜索し、赤く塗りつぶしてありました。
地図を見ると、捜索隊は数日前に一度そこを調査したようでした。
この時期の残雪は、天気が良ければ、数十cm融ける日もありますので、その数日間で表面に出てきた可能性があります。
また、浮島のようなハイマツ帯が迷路のようになっていたので、見落としたのかもしれません。
次は警察に
ひととおり説明したあと、今度は警察がやってきました。
もう一度説明をし直しました。
山のことを知らない警官だったので、捜索隊の人たちも一緒になって説明してくれました。
その警官は若い人で、時々警察署のお偉いさん(?)と無線で連絡とりながら、調査を進めていきました。
「大変でしたね」
と、ねぎらいの言葉ももらいました。
まるで犯人じゃないか!
ところが、どこかの警察署、どこか遠くの部屋から届いてくる無線が、私をイライラさせました。
「◯◯さん(私)は、遺体に触れたのか?」
とか、
「◯◯さんは、どうしてそんなところにいたんだ?」
などと、言ってくるのです。
第一発見者だし、いろいろ調査するのは仕方がない。
けれど、口調を聴いていると、まるで自分が疑いを掛けられているかのような気分で、腹が立ってきました。
その場にいる警官や捜索隊のみなさんは、
「今日は登山出来ないし、時間をとらせて申し訳ない」
と言ってくれます。
しかし、遠くの誰かは、結局最後までそういう態度でした。
「これじゃあ、誰も警察に協力したくなくなるわ」
と思いました。
捜索隊、遺族のことを考え、ぐっと我慢していました。
もう一度、現場に
捜索隊の人たちは、ずっと探してきた仲間の遺体を、早く回収したいようでした。
「今から◯◯さん(私)に道案内してもらって、現場に行きたい!」
と警察に頼んでいました。一瞬、
「もう一度あそこまで登るのか?」
とも思いましたが、その時は、(警察ではなく)捜索隊の皆さんに協力したい心意気で一杯だったので、了解しました。
ザックから不要な装備を取り出して、日帰り装備を準備していました。
予定変更!ヘリが遺体回収
いざ出発!となったとき、
「◯◯さんは、そこから動いてはいけない。ヘリで遺体は回収する」
と、警察から連絡が入りました。
ガッカリする捜索隊のみなさん。
「捜索してきた仲間だもの、やっぱり、自分たちの手で下ろしたかったんだろうな」
と、その表情から悔しさが伝わってきました。
捜索隊の代表者が、遺体の確認をするために、ヘリポートの場所まで移動していきました。
私はそれからの行動予定を聞かれました。
「もう山には入る気分ではないけど、日程が余ったので、車中泊で普通の旅行にするつもり」
と言うと、警察からは、
「あなたがどこにいるかわからないと困る。家に帰って欲しい」
と言われました。
捜索隊の皆さん
それから、私は捜索隊の人たちが宿舎にしている旅館に招かれました。
お風呂をいただき、お茶を飲みながら、お話を伺うことができました。
お話によると、幅広い世代の山岳部OBたちが、数人ずつローテーションを組んで、数ヶ月に渡って捜索する計画だったらしいです。
その時は、捜索開始から2週間ほどだったと記憶しています。
私は、この日ずっと気になっていたことがあり、思い切って聞いてみました。
「みなさんの思いを考えると、私などが、たまたま発見してよかったのか?と思っています」
すると、
「遺体が見つかるまで、彼はずっと「失踪」なんです。ご家族もずっと冬の間待っていたのです。
もし、観光客などに発見されたのだとしたら、正直、ガッカリしたと思います。
でも、同じように山をやっている人に発見されたのだから、嬉しいことですよ」
と言われたのです。
いろいろ、警察にたいしてモヤモヤしたものがありましたが、この言葉をもらい、
「自分は、ためになることを出来たのかもしれない」
と、疲れが吹き飛びました。涙が出ました。
考えたこと
その後、
「遭難者が吹雪にまかれたあと、どのような行動をとったのか?」
「どうしてあんな場所にいたのか?」(一般ルートからかなりの距離)
については、わからなかったようです。
あの出来事に遭遇して、私が一番感じたことを書きます。
その元になるのは、「山岳部という組織の強さ」です。
警察の捜索が打ち切られたあと、自主的に捜索隊を結成して現場に乗り込んでくる。
何ヶ月にも渡って捜索し、
「絶対に、仲間を家族の元へ帰す」
ために頑張る、ものすごい仲間意識。結びつき。
それを知れば知るほど、逆に、思い知りました。
「わたしたち、普通の登山者が遭難した場合はどうなるのだろう?」
しばらくは警察などに捜索されるかもしれませんが、それが終われば、それまでです。
あなた(私)の遺体を探してくれる人はどこにもいない
のです。
家族や友人たちが
「行方を知りたい」
「どのように最後を迎えたのか知りたい」
と思ってくれても、それは、叶わぬ願いなのです。
なんて弱く、か細い私達でしょう?
弱い私達は、山で遭難してはいけません。
弱い私達は、山で死んではいけません。
私の体験が、遭難することの悲惨さを、少しでも伝えられることになれば幸いです。