こんにちは、寝袋!です。
みなさん、ビバークってしたことありますか?
「日帰り登山でも、ツェルトを持ちましょう」
なんて、入門書には書いてありますが、みなさんは、ちゃんと持っていますか?
私は以前、ツエルト無しで一晩ビバークする羽目になって、痛い目にあったことがあります。
それ以来、テント泊縦走以外では、必ず持っています。
脅すつもりはありませんが、あなたも持ったほうがいいですよ。
「ツエルトなしでビバークするあの辛さ、一度味わったらわかる」
と言いたいのですが、なかなかそんな機会もないでしょう。
かわりに私の体験談を聴いてください。
ツエルトなしでは、怖くて山へ行けなくなる・・・かも。
目次
北海道日高山脈の1,700m峰
その時登った山は、北海道日高山脈の1,700m峰です。
登山道はかなり荒れ果てて、ルートファインディングをしながら藪こぎしていく、そんな山です。
途中にテント場も水場もなくて、日帰りで帰ってくる必要がありました。
コースタイム
一応、登山道が健在だった頃のコースタイムを紹介しますと、
登り | 7時間30分 |
下り | 6時間 |
ということになっています。
「登山道が荒れた今だと、どれくらいかかるんだろう?」
と、不安感たっぷりだったと記憶しています。
私はその山へ行くのは初めてで、単独行でした。
普段生活しているところから、遠くに見える山でしたから、
「いつかは絶対に登ってみたい」
と意欲がわいたのです。
登山計画
体力にはそこそこ自信がありましたから、
「夜が明けてすぐの3時ごろに出発すれば、真っ暗になる前には帰ってこれるだろう」
と考えていました。
登りであまりにも時間がかかったら、途中撤退も考えていました。
登山の様子
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/06/ov3.jpg)
7月の北海道の日は長くて、3時には明るくなりますし、20時頃でもまだ薄暗い感じです。
ヤブ、ヤブ、ヤブ
沢に沿って続いているはずの登山道は、大雨で流されたのか荒れ果てていました。
途切れ途切れに残っている登山道を、つないで行きます。
やがて、
「これ、踏み跡だよな?」
と、かろうじて分かる程度の道に、変わっていきました。
腰ぐらいまでの高さの笹が茂ってくると、一見道がないのですが、ストックでガサガサ押し分けると、地面には踏み跡があるのです。
時々出現する古いピンクテープに勇気づけられながら、登っていきました。
笹の高さを見ると、その土地の最高積雪量がわかります。
雪深い土地は、笹が長くなります。
無事に登頂
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/06/OVRB1435.jpg)
出発してから7時間(10時)で、稜線に出ました。
稜線に出れば、藪こぎから開放されるかと思ったのですが、そうは甘くありませんでした。
そこからはハイマツが茂って、一歩ごとにハイマツの枝を腕で押しのけ、松ヤニと花粉にまみれながら歩いていくことになりました。
なんとか山頂にたどり着いた時は、14時になっていました。
途中から意地になって登っていましたが、なんと11時間もかかっています。
達成感はすごかったですが、のんびりする余裕もありません。
山頂には10分ほどだけ居て、行動食をとり、すぐに下山を開始しました。
「暗くなってしまうかな?」
1名とすれ違う
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/06/OVRB1483.jpg)
もう、いやだー
それから稜線を戻っていると、なんと1人の登山者とすれ違いました。
その方は、かなりの年配で、東北から来たお爺さんでした。
おじいさん、
「生木用のノコギリを片手に、ハイマツの枝を切り払いながら進んできた」
ということです。
「私はいつも、こういう登山してるんでね」
とおっしゃいます。
うーん、すごい人がいるもんだ。
お互いに健闘を祈って別れました。
私にとっては、うしろに誰かがいるというのは、安心感があります。
これ、単独行の保険みたいなものです。単独行の方は、最後尾は一番危険ですよ。
なぜビバークする羽目になったのか?
ハイマツ地獄(お爺さんが刈払いしてくれたとはいえ)の稜線を戻り、休憩後、稜線からの下降を開始しました。
半分ぐらい降りたところで、日が落ちてきて、薄暗くなってしまいました。
すると、登山道がとんでもない状況になったのです。
ストックで笹を払いのけても、踏み跡が見えません。
ヘッドライトで局部的な光だと、とくにわかりません。
「これは、やばい」
ストックで払いのけた先が、どれも踏み跡に見えてしまって、正しい方向に進めません。
GPSでは、だいたいの方向はわかりますが、短期的には踏み外す恐れが出てきました。
「これは・・・動かないほうがいいよな?」
ビバーク開始
幸いにも、雨が降る気配はありませんでした。
しかし、私は愚かにも、ツエルトを持ってきていなかったのです。
(正直言うと、購入すらしていなかったです)
そこで、まずは完全な暗闇になる前に、座るのに具合の良い木の下を探しました。
そして、防寒着を着込んで、上下ともレインウェアを着ました。
ビバークの経験はありませんでした。
「これでいいのか? やっておくべきことは?」
と不安でした。
行動食と水はたっぷり残っていましたから、それは安心でした。
木の下にザックを下ろして、その横に体育座りをしました。
「まじかよ~」
ビバーク開始です。
明るくなる明朝3時まで、6時間ほどの戦いです。
寒さとの戦い
雨は降っていませんが、ガスが出てきて空気は湿っぽかったです。
レインウェアの首元、手首、足首をきっちりと締めました。
これは、寒さ防止の意味もありましたが、虫が嫌だったからです。
じっとしていると、汗が冷えてきて、寒くなってきました。
濡れるというか、湿っている感じです。
「くっそー、ガス持ってくればよかった」
お湯でも飲めれば、かなり気分は違ったと思います。
暗闇との戦い
少しだけ月明かりはありましたが、木に囲まれているので、明るくはありません。
暗闇でじっとしていると、どうしても手足に意識が集中していきます。
虫が足をはい登っているような気がして、手で払い除けます。
実際に虫が居たかどうかもわかりません。
ただの汚れなどの異物感が、そう思わせたのかもしれません。
不思議と、ヒグマのことは考えませんでした。
テント泊の経験は長いので、ひとの気配があればヒグマは寄ってこないと、知っているからです。
ヒグマより、ほんと、虫やヘビのほうが怖かったです。
時間との戦い
結果として、眠ったのか眠っていないのか、それはわかりません。
時々時計を見ても、1分しか時間が過ぎていない時もあれば、15分ほど過ぎていた時もありました。
うつらうつら、断続的に眠っていたのかもしれません。
とにかく、長かったですね。
「なんで、こんなに時間が経つのが遅いんだ?」
うまく、考え事に集中できたときは、時間が経つのが早かったような気がします。
自分との戦い
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/06/OVRB1484.jpg)
動いている時の山はそんなに怖くないのに、じっとしているととても怖いです。
寒い、怖い、辛い、長い・・・。
「もう行ってしまおうか?」
と何度も思いました。
「なんとかなるんじゃないか? このまま朝までは無理だ!」
って思えてくるんです。
なんとなく心の支え
でもこのときは(もう絶対に嫌ですが)、あのお爺さんが心の支えでした。
あのすれ違ったお爺さんは、あれから帰ってきていません。
ですから、この山の上のどこかで、頑張っているはずなのです。
まさか、こんなことになるとは思ってもいないので、あのお爺さんがツエルトなどを持っているかどうかは、聞きませんでした。
でも、なんとなくその時の私にとっては、心の支えでした。
「お爺さんも、どこかで一緒に頑張ってるんだから、自分も出来る」
ああ、生還
長い夜があけて、朝3時ごろ、待ってましたとばかりに立ち上がって、下山を開始しました。
明るくなると、わからなかった踏み跡が、嘘のように浮き上がってはっきりと見えました。
辛かったのか、辛くなかったのか、それも覚えていないほど、ガムシャラに下山しました。
登山口に置いた車の屋根が見えたときは、ほんとうに嬉しかったです。
「車にあるガスバーナーで、珈琲を淹れよう」
と思ったのですが、車にザックを下ろしたら、そのまま数時間寝てしまいました。
あの人と再会
実はその翌日、偶然、コンビニであのお爺さんを見つけたのです。
「うわっ、無事だったんだ!」
と、感激したのは私だけで、その人にとっては、なんともないことだったようです。
「あ、こんにちは。いい山でしたね」
と、普通に挨拶してこられました。
お爺さん、あのまま稜線で時間切れとなって、やはり着の身着のままビバークしたそうでした。
最初からそのつもりでいたそうですから、ビバークと言っていいのかわかりませんが。
反省点
この山行については、私は反省するべきことがたくさんありました。
- かなり長めに見積もっていたとはいえ、コースタイムを見誤ったこと
- いずれにしろ泊まる準備をしていくべきだったこと
- お湯を沸かす一式だけは準備していくべきだったこと
恥ずかしながら、これが私の唯一の「ツエルトなしビバーク」です。
その後、私はツエルトを購入しまして、日帰り登山では絶対に持っていくようにしています。
どんな初心者向けの山でも、いつもザックに入れています。
ちなみにその後、使ったのは、最初からビバーク予定だった、本州のバリエーションルートの1回だけです。
ツエルトは持っているだけではダメですよ
一応書いておきますが、ツエルトは持っているだけではダメです。
自分で設営できるように、練習しておく必要があります。
ちなみにツエルトには、設営を基本とした従来の形と、上からかぶって使用することを基本にしたものと、2つにわかれます。
どちらでもいいですが、必ず持ちましょう。
私は、
「ビバークする場合は、かなり条件も悪い場所になる可能性が高い」
と思っているので、『かぶるだけの形』のものを使用しています。
たったの100gで、これならいつでも持っていく気持ちになりますよ。
ツエルト無しでビバークするあの辛さ、知ってからでは遅いのです。
「持っててよかった~(涙)」となるでしょう。
設営しても、上からかぶって顔を出すだけでもOKなスグレモノ。