こんにちは、寝袋!です。
今回、私が経験した滑落をお話します。
この経験の前までは、私は慎重な人間だと思っていたのです。
「十分に安全に気をつけている」
と自負していました。
それが、まったく根拠のない、思い込みにすぎないことを思い知りました。
私の慢心も、どこかへ滑り落ちていきました。
まずは、その様子を聴いてください。
滑落の状況について
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北海道の日高山脈を、単独で縦走していた時でした。
私と同時期に、こちらも単独のAさんも日高縦走へ入るということでした。
違う入り口を起点にしましたので、
「ちょうど中間のどこかで合流しましょう!」
と約束していました。
現場は七つ沼カール
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/02/20180221-七ツ沼後郷さん.jpg)
七つ沼カール
場所はどこがいいか話し合い、七つ沼カールで合流することにしました。
残雪で7つの沼が出来ることから、七つ沼カールと呼ばれています。
水も豊富で、ナキウサギが生息しているうえに、登山者もとても少ないので、楽園と呼ばれています。
私が縦走に入ってから数日後、順調に七つ沼カールに到着しました。
カール壁の下降
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カール壁は上部ほど急なのが定番です
上から見ると、カールの底にAさんのテントが見えました。
「おっ、先に来てるな!」
私もカール壁を降り始めました。
カール壁というのは、上部は急なので、慎重に降りていきました。
最上部こそ地面が見えていたものの、残雪の急斜面に出ました。
とくに恐怖心も警戒心もなく、
「アイゼン付けるほどのことではない」
と、スタスタと雪渓に突入してしまったのです。
春先の腐った雪でしたから、キックステップもあまり効かず、ズルズルと滑りながら降りていく感じでした。
念のためにアイゼンを付ければよかったのですが、私はそうしませんでした。
理由①自信過剰
まず第一に、
「これくらいの雪渓ならどうということはない。むしろ、滑りながら降りられるぜ!」
という、過剰な自信でした。
実際、慎重に行けば、滑落することなく行けたように思います。
理由②虚栄心
次に、
「Aさんが待っている、見ている」
ということから、アホな虚栄心が芽生えたのでした。
- アイゼンなど使わず
- 格好良く降りてやろう
という、気持ちです。バカですね。
滑落! 止まらない!
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登山靴を滑らせながら降りていきましたが、次の瞬間、一気に滑り出しました。
足場を失った体は、縦走用の重いザックもあってバランスを失ってしまいました。
「あっ」
と思う間もなく、私の体は雪渓の上を滑っていたのです。
なんとか止めようとしますが、ピッケル無しで加速してしまった以上、もう止まるものではありません。
雪渓の下には、ゴロゴロと岩が転がっていました。
「なんとか、岩への直撃だけは避けなければ」
と、手で雪面にブレーキをかけ方向を変えようとしました。
ところが、飛び散る雪でメガネが真っ白になって視界もなくなりました。
もう、何も見えず、ただ落ちていくだけでした。
ほんの数秒ですが、自分ではどれだけの時間が経ったかわかりません。
ドシャッとハイマツ帯に突っ込んで、体が停止していました。
「私はどうなってしまったんだろう?」
こわごわと、少しずつ手を動かし、足を動かしてみました。
どうやら幸運にも、岩でなくハイマツ帯に突っ込んだおかげで、とくにケガもなく済んだようでした。
なにか出来たわけではなく、ただの偶然です。
たまたま、ぶつかったところがハイマツだったおかげで、私は九死に一生を得たのでした。
Aさんに下山してもらって、救助を要請するしかなかったと思います。
Aさんがあわてて駆け寄ってきました。
「運良く、どこにもケガはありません・・・」
情けない・・・
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/02/OVRB1524.jpg)
ナキウサギ
そのまま、私たちは七つ沼カールで2泊しました。
ナキウサギを観察したり、景色を堪能したり、ほとんど歩かずに時間を過ごしました。
ハイマツ帯に突っ込んだ時に、脚のあちこちに擦り傷が出来ていて、血が出ていました。
手の指の爪が割れていました。
痛いやら情けないやら。
とても素晴らしい景色に囲まれて、考える時間もたっぷりありました。
「今まで、あのくらいの雪渓は、大丈夫だと思って歩いてきた。
でも、今まで大丈夫だったというだけのことか・・・。滑ってしまえば危険が待っていたのか」
もう、あれから何年も経ちました。
今から思えば、あの時に私の意識はガラリと変わったのです。
「岩に当たって死ななくてよかった」
のはもちろんですし、
「もし足が折れていて、Aさんとの合流がなかったら、単独の私はあそこで動けなかった」
と思うのです。
ほんの少し違うだけで、私は地獄行きだったんだな・・・。
人は、こんなにアッサリ、死ぬか生きるかの状況に落ち込んでしまうんです。
そして、その境目はほんの偶然みたいなものなのです。
最後に
この一件から、私の安全に対する意識が大きく変わりました。
まだまだ完全に身に着けたとは言えないのですが、目指すところは決まったということです。
死なずにこういう教訓を経験できたのは、ラッキーでした。
おそらく、ほとんどの人が、滑落前の私と同じ意識ではないでしょうか?
自分の運に自信のないひとは、私のような失敗をする前に、気づいてくださいね。