こんにちは、寝袋!です。
私は、数年前、山で遭難者のご遺体を発見したことがあります。
「山は危険と隣り合わせの趣味」だと、頭ではわかっているつもりでしたが、実際に命が失われるのを見ることになろうとは。
それから私は、とても山が怖くなりました。
「山で命を落とす」
ということが、どこか遠くの出来事ではなく、自分自身のすぐ近くにあることなんだと知ったからです。
今では、以前よりさらに慎重になったと思います。
そういう意味では、私にとってとても貴重な経験だったのです。
しばらくは、
「遭難者に対して失礼だから、外に向けて発信するべきではない」
と思ってきました。
しかし、
「もしかすると、こういう経験は、他の登山者とも共有するべき教訓なんじゃないか?」
と、思うようになりました。
たしかに他の登山者たちに、伝えたいことがあります。
そこで、当時の出来事のこと、それから私が考えたこと、を書いていきたいと思います。
その時の登山は
6月の北海道の山々は、残雪がどんどん融け始める季節です。
その時計画したのは、一般的な縦走コースでした。
ただ、季節が早くて、まだほとんど登山者が入らない時期です。
夏になれば大勢の人で賑わう場所を、静かに味わいたいと思って登りにいきました。
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寒いけど天候は良かった
発見するまで
5泊6日ほどの計画で入山し、一晩目の夜は、氷点下近くまで冷え込んで寒い夜でした。
テントを張ったのは、テント指定地ではなく、残雪の上でした。
夏場はテント指定地以外の野営はご法度ですが、冬や残雪期はあいまいな世界です。
雹が降って眠れない夜
予想外の寒さ、しかも雹(ひょう)がテントを叩いてうるさくて、なかなか眠れない夜でした。
朝起きて温かい蕎麦を作って、体を温めました。
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生そば
テントを片付けて、元気ハツラツ縦走を再開しました。
予定外のルート
ここであまり詳しく書くと、ルートが特定されてしまい、遭難者の方の情報に行き着いてしまう恐れがあります。
場所についてはあいまいに書きますが、北海道の山に詳しい方にはわかってしまうでしょう。
この記事の本意ではないので、事故については調べないでいただきたいです。
本来歩こうと思っていたコースがあったんですが、ちょっと寄り道して行きたい場所を思いつきました。
そこで、出発してからルートを変えたのでした。
2時間ほど遠回りになりますが、たぶん目的地には十分時間があるでしょう。
雪原歩き
寄り道したかった場所を楽しんだあと、また歩き始めました。
たいして起伏もないルートで、その多くは雪原になっていました。
この雪原を渡って、再び登山ルートに復帰する予定です。
ザラザラに腐った雪で、とても歩きにくい雪原でした。
「スタミナ吸われるなあ」
などと嘆きながら、歩いていたと思います。
道中、誰にも会いません。
まだそんな季節じゃないのです。
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残雪期
嘘だと言ってくれ!
小高く盛り上がって雪のない場所があって、そこはまるで、雪原の海の上の小島のようでした。
夏道もところどころ見えていて、ルート取りが間違っていないことが確認できました。
ちょうどいいので、そこで一度ザックを下ろし、休憩することにしたのです。
腰を掛けて、水を飲んだり行動食を食べたりしました。
10分ほど停滞していたと思います。
「さて、いくか」
と腰を上げ、ザックを背負い直しました。
そして、歩き出そうとしたその先、雪原の上に、何かがあるのを見つけたのでした。
最初は、
「え? ヒグマ?」
と思いました。
距離は10mほどで、真っ黒で1m前後に感じました。
不思議なことに、「物」ではなくて「者」だということは、直感でわかったのです。
![](https://nebukurou.com/wp-content/uploads/2019/01/OVRB3460.jpg)
信じられなかった
足を止めて、観察すると、すぐにそれがヒグマではなく、人だとわかりました。
黒っぽい衣服を着て、うつ伏せに倒れています。
靴は脱げ、驚くほど薄着で、なんとなく衣服を脱いでいった様子でした。
荷物は周囲にはありませんでした。
両手で顔を隠すようにしていました。男性の体型に見えました。
私は叫びました。
「おいっ、おいっ、バカヤローっ! バカなことしてんじゃねえぞ!」
そんなわけはないのに、「誰かがイタズラで、私を驚かそうとしている」と錯覚しました。
信じたくなかったのかもしれません。
どうすればいいんだ?
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怖い
どう見ても、死んでいる、よな?
10mほどの距離がありましたが、近寄って確認する勇気がなく、一歩ずつソロリソロリと近づいていきました。
最終的に、5mほどには近寄った気がします。
「間違いない、最近の遭難ではない・・・」
体が膨らんでいるように見えました。
じかに触って100%の確認をすることなど、怖くて出来ません。
今、私がやるべきことは、何だ?
携帯電話は使えませんでした。
ここから人のいる登山口まで、走れば30~40分でしょう。
よし、走ろう。
そこで、まずはカメラで現場の撮影をしました。
もしかすると、今、動揺していて、勘違いとか思い込みをしているのかもしれない。
写真に収めておけば、誰かが判断してくれるかもしれない。
そして、持っていたGPS端末で現在地のログを記録し、周囲の様子を確認しました。
雪原の中ですが、場所はこれで見失わないだろう。
「今、ここでやれることはやったよな?」
とにかく全力疾走
もし、この遭難者に生命がないと判断したのなら、じつは走って下山する必要はなかったのかもしれません。
でも、走らずにはいられなかったのです。
柔らかくなった雪原の上を、足をとられながら必死に走りました。
どれだけ時間がかかったでしょう。
なんとか、登山口が見えるまでに近づきました。
ちょうど、これからの登山シーズンに向けて、コース整備している人がいたので、事情を説明しました。
「無線で登山口の施設に連絡しますから、そのまま行ってください!」
そこから登山口までは、たった5分ほどでしたが、縦走装備で走ってきて、もう息も絶え絶えで走れませんでした。
早歩きで登山口に到着すると、誰かが大声で叫んでいます。
「遭難者を発見した人は、あなたですかー?」
もう、声も出ず、うなづくのが精一杯でした。
報告
登山口で待っていた人は、じつは、遭難者を探している捜索隊の1人でした。
「いや、捜索隊が出ているような、最近の遺体じゃないんだけど・・・?」
と、一瞬疑問に思いました。
しかし、とにかく聞かれるままに、自分が見てきた状況を説明しました。
その人は警察にも連絡してくれて、助かりました。
ああ、これで、とりあえず私の役目は終わった。
そう思ったのです。
しかし、この出来事はまだ終わらず、これから私は「遭難事故の現実」というやつを、思い知ることになりました。
長くなりますので、後半に分けて書きます。