こんにちは、寝袋!です。
ペンション「シュプール」には、いろんな旅の人がやってきます。
その中で、北海道の山々を登る登山愛好家さんたちも、大きなウェートを占めます。
こっちが仕事しているのに、山へ登りに来た人たちの顔はほんとうにキラキラしています。
仕事してると「ああ、いいなあ」と目の毒です。
私の嫉妬はともかく、いろいろな登山者を観察していると、勉強にはなります。
勉強と言っても、反面教師もたくさんいますがね。
そして、愉快な習性の登山者を探すのが、ひとつの趣味になりつつあるくらい、楽しいことなのです。
私が鳥を観ていると
ある朝、私が愛用の双眼鏡で、窓から小鳥を観察していた時のことです。
誰かが隣に立った気配がしました。
「双眼鏡ですか。山では世界が広がるんだよね。私も持っているけど、荷物が重くなるから持っていかなくなりましたよ」
これから縦走に出発する前のAさんが、体力あり余っていた若い頃を思い出すかのように、つぶやいていました。
「そうですね。持っていきたい物はたくさんあるけど、軽量化も大切ですからね~」
私も、山で双眼鏡を使う良さは知っているので、ちょっと同情する気持ちが湧いて答えました。
え?
すると、Aさんが次に驚きの発言をしたのです。
「私の場合、ヒゲが伸びるのが速いから、電気ひげ剃りは外せないからなあ」
私、思わずAさんを振り向きました。
「え? 山へひげ剃り持っていくんですか?」
Aさんは、私が何に驚いているのかもわからない様子で、
「うん、電気ひげ剃りね。山じゃ石鹸使えないでしょ?」
とおっしゃいます。
「まあ、そうですけど・・・」
腑に落ちない様子の私を見て、
「縦走となると絶対伸びるから!」
力強く言い切るAさん。
Aさん、山では誰もヒゲのことなんて気にしないのでは・・・?
代わりに、双眼鏡持っていけばいいのに。
そう思ったのですが、口には出しませんでした。
裏剱の山小屋で
それから数ヶ月経った秋、北アルプス裏剱にある山小屋での出来事です。
テント泊の予定が、台風の直撃を受けて小屋に逃げ込んだ、翌朝でした。
その日は台風による増水のため、その小屋からすべてのルートが通行不可となり、皆が停滞を余儀なくされたのでした。
「さて、どうしたものか?」
それからのプランを練り直したり、小屋を修繕する様子を見たりして時間を潰していると、
ジジ、ジ、ジジジーー
なんと、電気ひげ剃りで、お顔をキレイにしている音が聴こえてきたのです。
「ん? もしやAさん?」
と、チラリと視線を送ると、全然違う人でした。
おいおい、もしかして、縦走に電気ひげ剃り持って行く人って意外といるのでしょうか?
バカにしてたけど、私が無頓着なだけなのでしょうか?
「山は紳士のスポーツだ!」
などと一喝されたりして?
みなさん、山に電気ひげ剃り、持っていきますか?