こんにちは、寝袋!です。
「登山では安全に気をつけて」
などと言いますが、はたしてどれくらいの登山者が、安全に山に登っていると言えるでしょうか?
私? 私自身は「まだまだ」だと思います。
そして、自分は安全だと自己評価を下している人の大半が、
「安全ではない」
と私は思っています。
登山者が、安全に山を歩けない理由をお教えしましょう。
目次
あなたは安全な登山者ですか?
まず、考えていただきたいのは、
「あなたは、自分を安全な登山者だと思いますか?」
ということです。
私は、さっきも書いたように、
「まだまだ」
だと思っています。
そう考える理由を、具体的に思い出せる例で書いてみます。
例①ある雪渓
春の北海道で、テント場から縦走路に上がるために、雪渓を登り始めました。
前日、同じ雪渓を下ったときは、午後の暖かい空気で雪はザクザクに腐っていました。
高度差と傾斜はありましたが、もし転んでもすぐに止まりそうだったので、プレッシャーもなく、アイゼンも付けずに簡単に降りることができました。
ところが、この早朝の雪渓は、再凍結してツルッツルに固くなっていました。
登りはじめてすぐに、
「おっ、昨日とは違うな!」
と気づきましたが、そのまま登り続けてしまいました。
高さが上がるにつれて、振り返る高度が恐ろしくなりました。
「もし転んだら、一気に下まで滑り落ちる」
と、一歩一歩慎重に歩を進めました。
その時点で、ザックを下ろせばザックが、座れば自分が、滑り落ちてしまうので、アイゼンを付けることも難しい状況に追い込まれていたのです。
写真のように、スプーンカット(デコボコ)があるので、ストックを頼りになんとか登りきりました。
例②剱岳の鎖場
北アルプスの剱岳で、難所として有名なカニのタテバイでのことです。
難所と言っても、鎖やボルトが設置されているので、慎重に進めばさほど難しいことはありません。
私は一応ハーネスを付けていましたが、確保(鎖にカラビナを通す簡易的な確保)もせず、普通に登っていきました。
実際、ここでそういう対応をするのは、山岳ガイドに率いられているツアー客だけでしょう。
一般的には、誰も確保なんてしません。
例③ある雪渓その2
ある山で、これから登っていく雪渓を見ると、ちょうど雪渓を誰かが登っているところでした。
写真で伝わるかわかりませんが、写真の人がいる場所はやや緩い傾斜ですが、そこから下は傾斜は増していきます。
下を見ても空しか見えない感じです。
もし滑落してしまえば、300m下の岩稜帯まで止まらないでしょう。
あとでこの人と会いましたが、この人も私も、アイゼンもピッケルも不携行でした。
「雪渓ヤバイですね」
と話しましたが、結論は、
「慎重に降りなければ・・・」
程度でした。
「慎重にいけば大丈夫」
と思っていました。
実際、緊張はしましたが、問題はありませんでした。
例④滝の高巻き(「愛山渓村雨の滝」滑落死亡事故発生)
私が通過した時
まだ雪渓が残る時期、滝を高巻く場所がありました。
進行ルートは、下の赤矢印のようになります。
夏道は雪渓で隠れているうえに、斜面は崩落していて、いやらしい場所でした。
私はアイゼンもピッケルも持っていました。
しかし、それらを使うことはなく、下草や木の根を手がかりに、なんとか突破しました。
もし滑ると、横の滝の滝壺にドボンする、緊張する場所でした。
滑落事故発生
じつはその後、ここを通過しようとした夫婦がいらっしゃったようです。
ご主人はなんとか通過したのですが、奥様が滑落し、滝壺に落ちたのです。
ご主人は自分では救助できず、救助を要請したのですが、残念ながら奥様はお亡くなりになっていたということです。
さらに、救助に向かった消防隊員も、滑落してケガをされたそうです。
少しネットで調べてみると、この事故のことについて、googleマップなどで地形を見て、
「滑落すると数十m落ちるような滝」などと、知らないで書いてある記事ばかりでした。
実際は、写真のように、ほんの数mのトラバースなのです。
そういうところでこそ、事故は起きるのです。
それを聞いたとき、私は、
「ああ、あそこは行っちゃダメ!」
と思ったと同時に、
「自分も一歩間違えば・・・」
とも思いました。
簡単だから安全?
いくつか例を見てきましたが、みなさんはどう思いましたか?
「いやいや、あれくらいの雪渓なら大丈夫でしょ?」
「タテバイで確保なんて、いらないいらない(笑)」
と思う人が多いのではと思います。
私も、そう思いました。
でも、その時点で、あなた(私も)は、「安全な登山者ではないっ!」ということに、気づくべきなのです。
登れるかどうかではなく、止められるかどうか
雪渓や難所を、
「登れるかどうか」
で判断しては、いけません。
もし、そこで滑ったり落ちたりしたときに、
「止められるかどうか」
で判断するべきだと、私は思います。
100発100中?
なぜなら、100回中99回成功するような『上手いあなた』でも、1回は失敗するからです。
失敗していないのは、まだ回数をこなしていないからです。
100回目か、1,000回目かわかりませんが、いつか「そのとき」は来ます。
そのとき、
死なないのが『安全な登山者』であり、
死んじゃうのが私たち『安全でない登山者』です。
邪魔をする要素
例①では、私はアイゼンを持っていました。
登り始めですぐに戻り、アイゼンを付けてピッケルを持てばよかったのです。
例②では、ハーネスを付けているのだから、自己確保すればよかったのです。
例③では、装備はありませんでしたから、登るのを止めるか、ハイマツ帯を藪こいで行けるか試すべきだったのです。
例④では、ピッケルを使えばよかったのです。
どうして、それが出来ないのでしょう?
考えられる原因はいくつかあります。
みんなが行っている
たとえば誰かが先に行っていた場合です。
その人がアイゼンもピッケルも出していないのだから、なくても行けるはずだという考えです。
恥ずかしい
同じように、他の誰かが居た時に、
「ここでピッケル出したら、下手だと思われる。恥ずかしい」
という考えもありますね。
アイゼン使う人≪アイゼン使わなくても行ける人
という、間違った認識が、誰の心にも多少はあります。
面倒だ
どうすればいいのかわかっているのに、正解がわかっているのに、
「面倒だ!」
と、強行突破してしまうことがよくあります。
(本人が考える)危険度が微妙なラインだったり、短い区間だけだったりすると、とくにこういう考えになります。
反論! 登山には危険はつきものだ!
なかには、
「バカヤロウ! 登山は挑戦なんだよ。安全なだけが全てじゃないだろ!」
と反論する方もいらっしゃるかもしれません。
いや、ごもっともです。
多くのアルピニストが、偉大なチャレンジに命をかけてきました。
安全第一では達成できないことも、たくさんあったでしょう。
でも、あなたは違います。
「あなたがする程度のチャレンジは、登山界ではなんの意味もない」
ことを知るべきです。
安全を無視してやるほどのチャレンジは、あなたの周りにはありません。
(すみません、偉そうに)
最後に・・・上級者ほど慎重で丁寧です
どうでしょうか?
私たちは、安全に山を登る装備を持っていて、使いこなす知識と技術も持っています。
それなのに、
なぜか、全力を尽くさない
のです。
ここで使わなくて、いったいどこで使うというのでしょう?
登山者って変わった人種ですね。
私は、
- 登れるかどうかで判断せず
- 万が一、失敗した時に止められるかどうかで判断し
- 準備できることをやったうえで、
山を登っていける人だけが、安全な登山者だと思います。
言い方を変えれば、
「手抜きしないで山に登れる人」
が安全な登山者ではないでしょうか?
(まともな)山岳ガイドは、じつは、そういうレベルに達している人が多いです。
なぜなら、自分より遥かにミスを犯しやすい人を、安全に通過させる技術と、それを淡々とこなしていく油断のない心を持っているからです。
「おいおい、山岳ガイド! こんなところで、モタモタとロープ出してるんじゃねえよ!」
と思うことがありますよね。
私もよく思いますもの(笑)
でも、逆に考えれば、みんながロープを出す安全意識レベルに到達すれば、そんなこと思わないようになるのかもしれませんね。
それはともかく、私は安全な登山者になるべく、頑張っていきます。
あなたもぜひ、頑張ってください。