こんにちは、寝袋!です。
みなさん、ビバークってしたことありますか?
「日帰り登山でも、ツェルトを持ちましょう」
なんて、入門書には書いてありますが、みなさんは、ちゃんと持っていますか?
私は以前、ツエルト無しで一晩ビバークする羽目になって、痛い目にあったことがあります。
それ以来、テント泊縦走以外では、必ず持っています。
脅すつもりはありませんが、あなたも持ったほうがいいですよ。
「ツエルトなしでビバークするあの辛さ、一度味わったらわかる」
と言いたいのですが、なかなかそんな機会もないでしょう。
かわりに私の体験談を聴いてください。
ツエルトなしでは、怖くて山へ行けなくなる・・・かも。
目次
北海道日高山脈の1,700m峰
その時登った山は、北海道日高山脈の1,700m峰です。
登山道はかなり荒れ果てて、ルートファインディングをしながら藪こぎしていく、そんな山です。
途中にテント場も水場もなくて、日帰りで帰ってくる必要がありました。
コースタイム
一応、登山道が健在だった頃のコースタイムを紹介しますと、
登り | 7時間30分 |
下り | 6時間 |
ということになっています。
「登山道が荒れた今だと、どれくらいかかるんだろう?」
と、不安感たっぷりだったと記憶しています。
私はその山へ行くのは初めてで、単独行でした。
普段生活しているところから、遠くに見える山でしたから、
「いつかは絶対に登ってみたい」
と意欲がわいたのです。
登山計画
体力にはそこそこ自信がありましたから、
「夜が明けてすぐの3時ごろに出発すれば、真っ暗になる前には帰ってこれるだろう」
と考えていました。
登りであまりにも時間がかかったら、途中撤退も考えていました。
登山の様子
7月の北海道の日は長くて、3時には明るくなりますし、20時頃でもまだ薄暗い感じです。
ヤブ、ヤブ、ヤブ
沢に沿って続いているはずの登山道は、大雨で流されたのか荒れ果てていました。
途切れ途切れに残っている登山道を、つないで行きます。
やがて、
「これ、踏み跡だよな?」
と、かろうじて分かる程度の道に、変わっていきました。
腰ぐらいまでの高さの笹が茂ってくると、一見道がないのですが、ストックでガサガサ押し分けると、地面には踏み跡があるのです。
時々出現する古いピンクテープに勇気づけられながら、登っていきました。
笹の高さを見ると、その土地の最高積雪量がわかります。
雪深い土地は、笹が長くなります。
無事に登頂
出発してから7時間(10時)で、稜線に出ました。
稜線に出れば、藪こぎから開放されるかと思ったのですが、そうは甘くありませんでした。
そこからはハイマツが茂って、一歩ごとにハイマツの枝を腕で押しのけ、松ヤニと花粉にまみれながら歩いていくことになりました。
なんとか山頂にたどり着いた時は、14時になっていました。
途中から意地になって登っていましたが、なんと11時間もかかっています。
達成感はすごかったですが、のんびりする余裕もありません。
山頂には10分ほどだけ居て、行動食をとり、すぐに下山を開始しました。
「暗くなってしまうかな?」
1名とすれ違う
それから稜線を戻っていると、なんと1人の登山者とすれ違いました。
その方は、かなりの年配で、東北から来たお爺さんでした。
おじいさん、
「生木用のノコギリを片手に、ハイマツの枝を切り払いながら進んできた」
ということです。
「私はいつも、こういう登山してるんでね」
とおっしゃいます。
うーん、すごい人がいるもんだ。
お互いに健闘を祈って別れました。
私にとっては、うしろに誰かがいるというのは、安心感があります。
これ、単独行の保険みたいなものです。単独行の方は、最後尾は一番危険ですよ。
なぜビバークする羽目になったのか?
ハイマツ地獄(お爺さんが刈払いしてくれたとはいえ)の稜線を戻り、休憩後、稜線からの下降を開始しました。
半分ぐらい降りたところで、日が落ちてきて、薄暗くなってしまいました。
すると、登山道がとんでもない状況になったのです。
ストックで笹を払いのけても、踏み跡が見えません。
ヘッドライトで局部的な光だと、とくにわかりません。
「これは、やばい」
ストックで払いのけた先が、どれも踏み跡に見えてしまって、正しい方向に進めません。
GPSでは、だいたいの方向はわかりますが、短期的には踏み外す恐れが出てきました。
「これは・・・動かないほうがいいよな?」
ビバーク開始
幸いにも、雨が降る気配はありませんでした。
しかし、私は愚かにも、ツエルトを持ってきていなかったのです。
(正直言うと、購入すらしていなかったです)
そこで、まずは完全な暗闇になる前に、座るのに具合の良い木の下を探しました。
そして、防寒着を着込んで、上下ともレインウェアを着ました。
ビバークの経験はありませんでした。
「これでいいのか? やっておくべきことは?」
と不安でした。
行動食と水はたっぷり残っていましたから、それは安心でした。
木の下にザックを下ろして、その横に体育座りをしました。
「まじかよ~」
ビバーク開始です。
明るくなる明朝3時まで、6時間ほどの戦いです。
寒さとの戦い
雨は降っていませんが、ガスが出てきて空気は湿っぽかったです。
レインウェアの首元、手首、足首をきっちりと締めました。
これは、寒さ防止の意味もありましたが、虫が嫌だったからです。
じっとしていると、汗が冷えてきて、寒くなってきました。
濡れるというか、湿っている感じです。
「くっそー、ガス持ってくればよかった」
お湯でも飲めれば、かなり気分は違ったと思います。
暗闇との戦い
少しだけ月明かりはありましたが、木に囲まれているので、明るくはありません。
暗闇でじっとしていると、どうしても手足に意識が集中していきます。
虫が足をはい登っているような気がして、手で払い除けます。
実際に虫が居たかどうかもわかりません。
ただの汚れなどの異物感が、そう思わせたのかもしれません。
不思議と、ヒグマのことは考えませんでした。
テント泊の経験は長いので、ひとの気配があればヒグマは寄ってこないと、知っているからです。
ヒグマより、ほんと、虫やヘビのほうが怖かったです。
時間との戦い
結果として、眠ったのか眠っていないのか、それはわかりません。
時々時計を見ても、1分しか時間が過ぎていない時もあれば、15分ほど過ぎていた時もありました。
うつらうつら、断続的に眠っていたのかもしれません。
とにかく、長かったですね。
「なんで、こんなに時間が経つのが遅いんだ?」
うまく、考え事に集中できたときは、時間が経つのが早かったような気がします。
自分との戦い
動いている時の山はそんなに怖くないのに、じっとしているととても怖いです。
寒い、怖い、辛い、長い・・・。
「もう行ってしまおうか?」
と何度も思いました。
「なんとかなるんじゃないか? このまま朝までは無理だ!」
って思えてくるんです。
なんとなく心の支え
でもこのときは(もう絶対に嫌ですが)、あのお爺さんが心の支えでした。
あのすれ違ったお爺さんは、あれから帰ってきていません。
ですから、この山の上のどこかで、頑張っているはずなのです。
まさか、こんなことになるとは思ってもいないので、あのお爺さんがツエルトなどを持っているかどうかは、聞きませんでした。
でも、なんとなくその時の私にとっては、心の支えでした。
「お爺さんも、どこかで一緒に頑張ってるんだから、自分も出来る」
ああ、生還
長い夜があけて、朝3時ごろ、待ってましたとばかりに立ち上がって、下山を開始しました。
明るくなると、わからなかった踏み跡が、嘘のように浮き上がってはっきりと見えました。
辛かったのか、辛くなかったのか、それも覚えていないほど、ガムシャラに下山しました。
登山口に置いた車の屋根が見えたときは、ほんとうに嬉しかったです。
「車にあるガスバーナーで、珈琲を淹れよう」
と思ったのですが、車にザックを下ろしたら、そのまま数時間寝てしまいました。
あの人と再会
実はその翌日、偶然、コンビニであのお爺さんを見つけたのです。
「うわっ、無事だったんだ!」
と、感激したのは私だけで、その人にとっては、なんともないことだったようです。
「あ、こんにちは。いい山でしたね」
と、普通に挨拶してこられました。
お爺さん、あのまま稜線で時間切れとなって、やはり着の身着のままビバークしたそうでした。
最初からそのつもりでいたそうですから、ビバークと言っていいのかわかりませんが。
反省点
この山行については、私は反省するべきことがたくさんありました。
- かなり長めに見積もっていたとはいえ、コースタイムを見誤ったこと
- いずれにしろ泊まる準備をしていくべきだったこと
- お湯を沸かす一式だけは準備していくべきだったこと
恥ずかしながら、これが私の唯一の「ツエルトなしビバーク」です。
その後、私はツエルトを購入しまして、日帰り登山では絶対に持っていくようにしています。
どんな初心者向けの山でも、いつもザックに入れています。
ちなみにその後、使ったのは、最初からビバーク予定だった、本州のバリエーションルートの1回だけです。
ツエルトは持っているだけではダメですよ
一応書いておきますが、ツエルトは持っているだけではダメです。
自分で設営できるように、練習しておく必要があります。
ちなみにツエルトには、設営を基本とした従来の形と、上からかぶって使用することを基本にしたものと、2つにわかれます。
どちらでもいいですが、必ず持ちましょう。
私は、
「ビバークする場合は、かなり条件も悪い場所になる可能性が高い」
と思っているので、『かぶるだけの形』のものを使用しています。
たったの100gで、これならいつでも持っていく気持ちになりますよ。
ツエルト無しでビバークするあの辛さ、知ってからでは遅いのです。
「持っててよかった~(涙)」となるでしょう。
設営しても、上からかぶって顔を出すだけでもOKなスグレモノ。