こんにちは、寝袋!です。
北海道のトムラウシ山で起きた大量遭難事故で、一気に有名になった言葉があります。
低体温症(疲労凍死)
です。
私達登山者だけではなく、一般の人も知るようになった痛ましい事故でした。
「夏山なのに凍死? 低体温?」
と、疑問に思った人も多かったと思います。
しかし、低体温症のことを知っていても、
「もし実際になったら、現場でどうすればいいか」
を知っている人は、少ないのではないでしょうか。
近隣に、北海道の山岳関係者には有名なお医者さんがいらっしゃいます。
私も勉強させていただきましたので、まとめて紹介したいと思います。
- 低体温症とはなにか?
- 仲間がなったときの状況判断と処置
- 低体温症にならないために
を書いていきます。
目次
低体温症とは?
通常、体の温度は一定に保たれていて、寒くなると体が震え、筋肉から熱を発します。
体の大切な臓器がある中心部の温度(深部体温)は、ふつうは37℃ほどあります。
これが、35℃以下に下がってしまった状態を、
低体温症
といいます。
たった2℃下がっただけで、低体温症になるのです。
低体温症の早期発見
深部体温は、山で測ることは難しいです。
そのため、症状の変化を知り、
「低体温症だ」
と、早く気づくことが大切になります。
- 震えが出たり止まったりするのは、低体温症ではありません。次第に震えがひどくなって、止められなくなったら危ないです。
- 歩いたり、行動する動作が、遅くなってくる
- バランスを取りづらくなる
- 話す言葉も遅くなり、判断力も鈍くなってくる
低体温症の症状は、「疲労感」に似ています。
以前は「疲労凍死」と呼ばれていましたが、このことに由来します。
なりやすい人
同じ気象条件でも、なる人とならない人がいます。
体力がない人、栄養や水分が不足している人が、なりやすいです。
軽症と重症
低体温症は、ステージで表されます。
HT1 | 軽症 | 35-32℃ | 震えていて意識ははっきり |
HT2 | 中等 | 32-28℃ | 震えがなく意識が混濁 |
HT3 | 重症 | 28-24℃ | 意識不明 |
HT4 | 重症 | 24-10℃ | 生命兆候がない |
HT5 | 死 | 10℃以下 | 低体温による死 |
現場では、
- 震えがない
- 意識低下。刺激への反応が鈍い
- 心拍数、呼吸数の低下
が、重症と判断する情報となります。
現場処置
低体温症というものを知っていても、いざ現場で仲間が陥った時、どうすればいいかは、あまり知らないものです。
まずは基本的な処置
まずは、症状にかかわらず、以下の処置を行いましょう。
症状による処置は、その後です。
避難
風、雨、雪、低温から、避難させます。
風の当たらない場所を探し、テントやツェルトを張って中に入れます。
着替え
濡れた衣服を取り除き、乾いた衣類に着替えさせます。
自分で出来ない場合もあるでしょうが、ウェアを切り裂いてでも着替えさせます。
保温
マットを敷いて、地面からの断熱をします。
その上に、寝袋、シュラフカバー、断熱シート、ビニールでくるんで、寝かせます。
この保温がうまくできれば、あとは体の発熱をうながすことで、回復する場合が多いようです。
軽症の場合の体温の上げ方
体の中から加温するため、お湯を飲ませるのが一番効果的です。
体が震えるためのエネルギーとなるよう、砂糖を入れたお湯が推奨されています。
次に外からの加温として有効なのが、湯たんぽです。
プラティパスや水筒にお湯を入れて、
- 脇の下
- 首
に置くようにします。
回復したのちも、少なくとも30分は安静状態を保って、安定しているか様子をみます。
重症の場合
専門的な処置が必要
重症に陥ってしまった場合、かなり専門的な処置が必要になります。
例えば、心拍・呼吸の確認の上、口口呼吸をすることなどです。
ここでは、私のような者が、無責任に書くのは避けておきます。
とにかく保温に努め、救助を要請し、専門家の手に委ねることに全力を注ぐべきでしょう。
やってはいけないこと
ここでは、
「私達のような医学素人が、やってはいけないこと」
を書いておきます。
- 水平位を保って、心臓に負担をかけないようにする
- 体をこすってはいけない
- 食べ物、飲み物は与えてはいけない
- 歩かせて加温などは考えてはいけない
予防
いちばん大切なことは、低体温症にならないように対策することです。
私達はどういうことに気をつけるべきなのでしょうか。
ウェアについて
基本中の基本です。ウェアはこまめに調整しましょう。
寒く感じたら一枚多くする。汗をかいてきたら、脱いだり換気する。
濡れてしまったら、着替えるようにします。
厳しい天候下では、長い休憩はしない
行動しているときは暑くても、停滞しているとどんどん汗が冷えて寒さを感じてきます。
強風にさらされ続けているときは、休憩は避けたほうがいいです。
私も経験ありますが、元気な人でも一気に弱ってしまいます。
エネルギーを摂る
人間は、食べ物がないと熱が生み出せません。
行動中もこまめに行動食を摂り、水分も十分に摂りましょう。
「厳しい条件だな」
と感じたら、意識的に多めに食べるように心がけましょう。
ついつい少なくなってしまうものです。
私は、厳しい天候下では、
「とにかく食べろ、とにかく動き続けろ」
と、歩きながら一人で口に出していますよ。
最後に
じつは、あのトムラウシ山の遭難事故の日は、朝、テントも凍るような寒い日でした。
夏山といいつつ、山の上では氷点下まで下がってしまう日が、北海道では時々あるのです。
三川台という、トムラウシ山にほど近い(1.5時間)テント指定地で、知り合いがテントに閉じ込められていたのです。
知り合いは
「絶対に動いてはいけない日だ」
と、1日中停滞していたそうです。
もっとも、大切なことは、低体温症にならないように対策することだと思います。
それは、衣類だとかエネルギーだとかもそうですが、いちばん大切なことは、
そういう日に山で行動しないこと
だと思います。
お互いに安全に気をつけて、山を楽しみましょう。