【黒部峡谷下ノ廊下】水平歩道の歩き方【すれちがい・滑落注意】




こんにちは、寝袋!です。

登山愛好家にとって「憧れの山」というのは無数にあると思います。

富士山? 槍ヶ岳? それとも剱岳? エベレストという人もいるでしょうか。

人それぞれ、胸に秘める山の名前は違うでしょう。

さて、登山愛好家には「憧れの道」もありますよね?

ピークに登るのではなく、ただ、歩いてみたい道というのが。

栂海新道? 信越トレイル? 熊野古道?

外国に目を向けると、カミーノ・デ・サンティアゴ、アメリカ3大トレイルなどもありますね。

今回は、富山県の黒部峡谷に付けられた道、

『水平歩道』

について、その魅力や歩き方をまとめてみました。

私、水平歩道大好きです!

黒部峡谷水平歩道とは?

黒部峡谷の深い谷のうち、欅平(けやきだいら)から黒四(くろよん)ダムの部分を『下ノ廊下(しものろうか)』と呼びます。

そのなかで、欅平から仙人谷ダムまでの、標高1,000mぐらいをずっと水平に移動する道、それが水平歩道です。

黒部川までの高さは400mほど、道幅はせまいところで80cmです。

黒部峡谷の美しさと、スリルとを味わえるこの道は、登山者や温泉マニアの間で大人気の道です。

水平歩道の歴史

岩壁を削る前の水平歩道

水平歩道は、ふくれあがる電力需要に対応するため、新しいダムの調査のために作られました。

上の写真のように、岸壁に木の杭を打ち付け、その上に丸太を渡してありました。

こんな道を、資材を担ぎながら13kmも歩いたというのが信じられません。

当然ですが、多くの事故が起きたようです。

当時は、戦争に向けての国策でしたので、犠牲はかえりみず、

「なにが何でも」

の精神で強行されました。

今では岩壁がくり抜かれて、一応地面の上を歩ける安全な道(?)となっています。

「水平歩道の入り口」欅平への行き方

トロッコ列車

水平歩道の入り口である欅平へは、黒部峡谷鉄道のトロッコ列車に乗ります。

始発の宇奈月温泉から終点の欅平まで、途中いくつかの温泉や観光スポットを通って行きます。

とくに観光客が集中するのは、秋の紅葉の時期です。

欅平から唯一の避難所である阿曽原(あぞはら)温泉小屋まで、かなりの時間がかかります。

水平歩道を歩くのならば、ぜひ始発列車での出発をオススメします。

もしくは、欅平の温泉で一泊するのも方法です。

黒部峡谷鉄道公式HP

水平歩道のルート概要(欅平~阿曽原温泉小屋)

引用:もるとゆらじお様

私のGPSログより

欅平からは、まずは水平歩道の入り口まで一気に標高を上げます。

しじみ坂と呼ばれる急登です。

そこから、黒部峡谷を見下ろしながら、標高1,000m(黒部川まで約400m)のところを歩いていきます。

その名の通りほとんどが水平ですが、阿曽原温泉小屋へは一度標高を下げ、仙人谷ダムへ向けてもう一度登ることになります。

上の地図(緑色が歩くルート)のように、谷があるたびに迂回しますから、かなりの距離があります。

途中、

  • 志合谷(しあいたん)のトンネル
  • 折尾谷(おりおたん)のトンネルや滝
  • 大太鼓と呼ばれる撮影スポット

など、変化に飛んでいますので、長いながらも飽きません。

ポイント①水平歩道までの急登「しじみ坂」

欅平駅から、一気に標高を400m上げる急登が始まります。

早く水平歩道に達したい気持ちを裏切るかのような、きつい登りです。

ずっと下の方に欅平駅が見えるので、自分がどれだけ高度をあげているか感じられます。

帰りは下りですが、それもなかなかきついです。

ポイント②志合谷のトンネル

雪渓の左右の道をつなぐ志合谷トンネル

遅くまで雪渓の残る志合谷(しあいたん。富山では谷のことを「たん」と呼んでいたそうです)は、トンネルで通過します。

雪渓の裏の岩盤をくり抜かれた素掘りのトンネルで、ようやく大人が通れるくらいの高さしかありません。

長さは150mあって、当然照明などありません。真っ暗です。

ヘッドライトがなければ、通ることは不可能でしょう。

足元はたいてい水たまりで、バシャバシャという水音と、自分の荒い息だけが響き渡ります。

ライトに照らされたヒカリゴケや鉱物が、キラキラときれいです。


(すごくわかりやすい動画がyoutubeにありましたのでどうぞ)

つい速歩きになってしまいますが、けっこう頭ゴッチンするので、気をつけて歩いて下さい。

この150mは長く感じます。

ポイント③大太鼓

「こんなものじゃない」大太鼓はもっと刺激的!

水平歩道で一番の人気撮影スポットが、「大太鼓(おおだいこ)」です。

飛び出た岩山を回り込むように続くところで、高度感もすごいですし、ドキドキです。

水平歩道というとこの場所の写真が出てくるので、

「水平歩道って全部こんなところなのか?」

と勘違いされがちです。

もっと道幅が広いところもありますし、土の上を歩く場所もありますよ。

ポイント④オリオ谷トンネル

折尾谷

折尾谷は、小さな砂防ダムの中を通るトンネルがあります。

距離は短いですし、ヘッドライトは不要です。

雨の後はかなりの水が溜まっていて、通れない場合があります。

折尾の大滝

折尾谷には滝があります。

滝の周囲は広くなっていますので、休憩するのにちょうどよい場所と言えるでしょう。

とくに暑い夏は、滝からの水しぶきが気持ち良いです。

雨の後は濡れる可能性も

ポイント⑤阿曽原温泉小屋

水平歩道は仙人谷ダムまで続きますが、ひとまずはここで終了です。

長い長いプレッシャーを乗り越えた、ゴールの感動を味わってください。

ご褒美は、温泉露天風呂です。

阿曽原温泉小屋の小屋番さんはじめ、スタッフさんは山の達人です。

また、富山県警山岳警備隊が常駐する期間もあります。

ポイント⑥仙人谷ダム&トンネル

阿曽原側出入り口

水平歩道の終点の仙人谷ダムですが、面白いことに、ルートはこのダム施設の中を通過していきます。

注意書きをよく読んで、迷惑をかけないように心がけたいものです。

私の失敗

お恥ずかしいですが、私は一度迷ってしまって、管理室みたいなところへ出てしまいました。

黒部ダム側から阿曽原方面へ抜けるときです。

ダムの管理室みたいなところへ出てしまい、室内履きスリッパが並んでいました。

「まさかスリッパに履き替え?」

「いやいや、さすがにここは違うだろう」

と引き返して、出口を見つけました。

トンネル内は高熱でメガネは曇ります

小説「高熱隧道」にも出てくるとおり、このあたりは岩盤が高温です。

危険はないとはいえ、メガネの人は曇って見えなくなりますよ。

また、線路も引かれているので、もしかすると作業列車が通過する可能性もあります。

十分に注意しましょう。

ダム施設内を歩く

案内看板に注意して

水平歩道からの分岐

水平歩道が終わると、その先は2つのルートに別れます。

裏剱仙人池方面へ

雲切新道への超のつく急登をして、仙人温泉小屋、仙人池へ登っていくルートです。

剱岳を裏側から観る絶景は、この先にあります。

欅平を出発したら、一日で行けるのはせいぜい仙人温泉小屋でしょう。

仙人池まで行くのは、かなりの健脚者だけと考えてください。

黒部ダム方面へ

水平歩道は終わりますが、そのまま黒部峡谷をさかのぼっていくことができます。

『下ノ廊下』完歩を目指す人はこちらです。

夏が終わって秋になってから、ようやく残雪の影響を避けて開通します。

9月中旬以降なのは間違いないと思って良いでしょう。

年によると、開通しないこともあります。

阿曽原温泉小屋などで、常に情報を仕入れて行きましょう。

白竜峡、十字峡など、

「これぞ黒部!」

という景観が味わえるルートですが、難易度は水平歩道より上がります。

水平歩道を歩くときの注意

水平歩道を歩く場合の、独特の注意点を書き出してみます。

「黒部にケガなし」

この高度感!

俗に「黒部にケガなし」と言われます。

これは、

「落ちるということは死ぬことであって、ケガで済むことはまずない」

ということです。

黒部では、人知れず落ちて、そのまま遺体も発見されず、行方不明となるケースも多いです。

黒部の大自然は、それだけ危険と隣り合わせだからこそ、味わえるものなのです。

壁の番線(針金)

壁には針金が設置してあります

水平歩道の全線を通じて、たいてい壁際に針金が設置してあります。

針金に頼って歩くことはやめたほうがいいですが、いざというときのために、片手は常に針金に触れておくぐらいが良いと思います。

「あっ」

と軽くよろめいただけで、命を落とすことになりかねませんから。

ところどころ、歩きづらい難所もあります。

心配な人は、簡易的なハーネス(スリングとカラビナで)を作って、怖いところだけ針金に通しておくのも方法でしょう。

ずっとやるのは時間がかかりすぎますけどね。

すれ違い注意

狭いところで幅70cmぐらい、ほとんどが1mもない道です。

前から来る人とのすれ違いは、お互いに危険性が高まります。

とくに、大きなザックを背負っていますから、思いもかけず相手にぶつかってしまうことも考えられます。

少しでも広いところで、うまくすれ違いましょう。

以前・・・

昔、前から来た若い男性が、一枚歯の高下駄を履いていたことがありました。

しかも、すれ違うときにサッと谷側へ避けて立ち、私は山側を通過しました。

「この人、恐怖心ないのかなあ? 私が押したらどうするんだ?」

と、こちらのほうが背中が寒くなりました。

何気ないところが危険です

何気ないところこそ危険です

大太鼓のような高度感抜群なところは、誰もが緊張して注意深く歩きます。

でも、じつは事故はそういうところでは起きないものなんですよね。

たとえば上の写真のような、木が生えていて下が見えず、緊張がゆるんで歩いているときが、危ないです。

地面に埋まった石が、濡れていたり苔むしていて、ツルッといったら・・・。

400m落ちるのも10m落ちるのも、実際はどっちも「死」なわけです。

高度感を麻痺させないで、無事にゴールしてください。

ヘッドライト忘れたらアウト

志合谷のトンネルは、ヘッドライト忘れたらアウトです。

今どきはスマホでもライト代わりになるかもしれませんが、絶対に忘れないようにしましょう。

【最強ヘッドライト】ブラックダイヤモンド ストームの使い方【ペツルとの違い】

2019年3月13日

雨は川になって襲ってきます

通常の状態。雨が降ると滝になります

岩壁に作られた道ということは、雨が降るとその壁を伝って、滝のように降ってきます。

上からじゃなく横から来る水は、レインウェアの中へたやすく侵入して、濡れてしまうでしょう。

また、水圧で押されて滑落の危険も増します。

雨の日の水平歩道は、より慎重な行動が必要です。

水平だけど疲れます

水平歩道は、ほぼ水平です。

ただし、緊張感でずっと力が入っていますし、距離も13kmと長いです。

実際は、かなり疲れてしまいますし、時間もかかります。

とくに夏場は、高山帯と違って暑いです!

標高1,000mですから、低山歩きみたいなものです。

時間に余裕を持って、計画されるといいいでしょう。

ヘルメット推奨します

水平歩道は、頭の上に岩が飛び出ている場所も多いですし、志合谷のトンネル内でもいきなり低くなっています。

うっかり頭をぶつけることが多いです。

私のようなおっちょこちょいは、何度もぶつけてしまいます。

最初から最後まで、ヘルメットを装着するのをオススメします。

【初心者におすすめ】登山用ヘルメットの選び方・使い方

2019年2月19日

季節による注意点

日本の山が一番混雑するのは、やはりお盆前後の夏休みでしょう。

しかし、水平歩道は違います。

水平歩道自体が夏まで整備もされませんし、下ノ廊下へは秋も深まらないと開通しません。

お盆はまだ閑散期です。

登山者は、秋の紅葉が深まり、下ノ廊下開通と同時に押し寄せます。

小屋もテント場も超満員ですし、しかも他に場所がありません。

私は、秋以外も素晴らしいと思います。

水平歩道は夏でも楽しめますので、空いている夏を狙うのもアリでしょう。

水平歩道必読書「高熱隧道」

水平歩道を歩く場合は、その歴史を知ってから歩くと、魅力が倍増します。

そのためには『高熱隧道(こうねつずいどう)』という最適な小説があります。

黒部という土地の偉大さと、自然に立ち向かう人間との物語です。

あらすじ
黒部第三発電所――昭和11年8月着工、昭和15年11月完工。人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷の、岩盤最高温度165度という高熱地帯に、隧道(トンネル)を掘鑿する難工事であった。犠牲者は300余名を数えた。トンネル貫通への情熱にとり憑かれた男たちの執念と、予測もつかぬ大自然の猛威とが対決する異様な時空を、綿密な取材と調査で再現して、極限状況における人間の姿を描破した記録文学。

小説『高熱隧道』(吉村昭)のポイントを写真とイラストで紹介します

2019年9月1日

阿曽原温泉小屋に泊まろう

欅平と黒部ダムを結ぶ「黒部峡谷下ノ廊下」の、中間地点にあるのが阿曽原温泉小屋です。

唯一の小屋、そしてテント場です。

無理に通過する人もいますが、可能かどうかではなく、この小屋(テント場)で一度足を止めることをオススメします。

安全面の意味でもありますが、この奥地で温泉に入るという魅力もあるからです。

【黒部の最重要拠点】阿曽原温泉小屋の宿泊ガイド【ブログ必読】

2019年7月8日

水平歩道は唯一無二の道

スリルがあって面白い道です

日本を見渡すと、素晴らしいトレイルや縦走路はいくつもあります。

時にはいくつものピークを越えて、その土地の魅力を味わいながら歩ける道です。

その中でも、

  1. 「水平」という特殊性
  2. 人工の道ならではの歴史
  3. 日本でも特異な「黒部」という土地の荒々しさ

という、一風変わった道が「水平歩道」です。

日本では同じような場所はないでしょう。

アプローチもトロッコ列車、立山黒部アルペンルートと、変化に飛んでいて面白いです。

黒部の大自然と歴史を、スリルというスパイスを効かせて、味わっていただきたいと思います。

こちらもどうぞ

標高0mと3,000mを結ぶ道、栂海新道(つがみしんどう)はご存知ですか?

こちらも大好きな道です。

【登山計画】栂海新道縦走マニュアル【歩き方】

2019年1月28日

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