こんにちは、寝袋!です。
登山者なら、クライマー山野井泰史(&妙子夫人)のことはご存知でしょう。
かつて世界最強と言われた日本を代表するクライマーです。
これまで、自筆も含め数冊の本が出版されていますが、世界的なクライマーにしては少ない数です。
山野井夫妻はあまりメディアに出ることを好まないので、その実績とは裏腹に、なかなか情報は出てきません。
ですから、私も含めファンは、彼らの情報が少しでもあれば食いつくように読み、本なども何度も何度も読み返しているのです。
そんななか、ちょっと盲点になっている本が、
山野井泰史の父親が書いた「いのち五分五分」
という本です。
「天国に一番近いクライマーを、子にもった親の想い」
に、私は感動しました。
「あなたの息子は、世界で一番死にそうな人間です」
と言われて生きるのは、どんな気持ちなんでしょう?
ファンはもちろん、すべての登山者に読んでほしい本です。
目次
「いのち五分五分」はどんな本?
題名に込められた意味
まず題名の「いのち五分五分」ですが、これは、
高齢になった自分(父・著者)と泰史(息子)、どっちが先に死ぬか五分五分になった
という意味です。
山野井泰史の父親の立場から
若い頃「天国に一番近いクライマー」と讃えられていた山野井泰史。
それは称賛であり、名誉とも言える「称号」なのですが、親にしてみると複雑な思いだったでしょう。
「酸素ボンベなしでエベレストに登る」という夢を文集に書いた少年が、いかにして世界的なクライマーになっていったのか?
山野井泰史本人では、絶対に語らないようなことが書かれているのです。
息子夫婦の無事の帰還を待つ気持ち
私はクライマーの本が好きですし、読むたびに、
「すごいなあ」
と、ドキドキ・ワクワクを感じます。
自分では絶対に行けない場所で繰り広げられるストーリーは、冒険譚です。
ところがこの本は、その冒険から無事に帰ってくることだけを願っている、そんな立場で書かれています。
「いのち五分五分」ファンでも知らなかったエピソード
ネタバレになってしまいますので、詳しくは書きませんし、すべてではありません。
ファンでも知らないようなエピソード、いくつか抜き出してみますね。
岩壁で出っ歯が治った
山野井泰史は、子供の頃、あだ名にもなるくらい「出っ歯」だったそうです。
ところが、中学生の時に岩壁に激突し、前歯が鼻まで抜けるくらい、めり込みました。
そのおかげで、出っ歯がなくなったそうです。
田部井淳子さんとの運命
山野井泰史の小学生の頃の先生に、立岩先生という女性がいたそうです。
この先生は、アフリカなど誰も行かないような場所へ、自力で行く人でした。
その精神は、山野井泰史に大きな影響を残したということです。
その先生は、アフリカで事故で亡くなられてしまうのですが、そのとき、たまたま近くにいて付き添ったのが、田部井淳子さんでした。
「日本人が事故で入院している」
と、偶然聞きつけた田部井さんが、最後を看取ったそうなのですが、それが山野井泰史の恩師だとは、ずっと後になるまでわからなかったそうです。
2人の登山者を結びつけた運命的な出来事でした。
妙子夫人がすごすぎる
これまでの本でも、
山野井泰史もすごいけど、妙子夫人はもっとすごい
と語られてきました。
それは、親の立場からみても同じだったようです。
ギャチュンカンで行方不明になったとき、
「泰史は死んでもいいから、妙子だけは帰ってきてくれ」
と思ったと、本当の娘のように感じていると、率直に書かれています。
雨漏りのする5万円の車
山野井夫妻は、雨漏りのする5万円の車を、大切に乗っています。
屋根には、自分でパテで埋めた穴があるそうです。
また、ビデオデッキが壊れたとき、著者が、
「8千円で売ってるよ?」
と、チラシ片手に教えてあげたところ、
「1万円で修理出来るそうなので、修理して使います」
と答えたそうです。
とにかく物を大切に、使うご夫妻なのです。
こんな人にオススメしたい
登山者に知ってほしい「待つ者の気持ち」
私は、今まで読んできた登山関係の本で、感動はたくさん味わってきました。
勇気、努力、苦難、そして達成感。
時々は感動で涙も流しました。
でも、読んでいる途中で、何度もグッと気持ちが高ぶってしまった本はこれが初めてです。
山野井さんとはレベルが違うとはいえ、同じように山登りをしている自分と、それをいつも心配そうに待っている親や家族の気持ちに重ねてしまうのです。
「みんな、こんな思いで待っているんだろうか?」
とくに、山野井さんのお母さんがいじらしく、素晴らしく・・・。
山野井泰史ファンでも知らないエピソードが多い
前述の通り、山野井泰史夫妻は、メディアにも出ませんし、自分たちから表舞台に立つことはありません。
それはファンなら誰でも知っていることです。(そして歯がゆい思いもしている)
だからこそ、彼らのエピソードも知り尽くされていることばかりで、新しいことは滅多に知ることができません。
そんなファン(私)ですら、知らないエピソードが多かった!
上で少しだけ書きましたが、まだまだこんなものではありません。
「いのち五分五分」と「垂直の記憶」を組み合わせて読んでください。
すべての話が繋がりますし、比べると面白いですよ。
もっと知りたい
これから山野井泰史夫妻のことを知りたい人は、
- 「ソロ」(丸山直樹)
- 「凍」(沢木耕太郎)
- 「垂直の記憶」(山野井泰史)
を読んで、それから本書「いのち五分五分」を読まれるといいですよ。
それらを全部読んでいるファンにとっては、本書「いのち五分五分」は、
- すべての伏線をまとめる最終回
- いろんな糸をすべて束ねる総集編
のような本です。
山野井泰史のことを本当に知るには、親の視点が必要だったのか!
あまり知られていない本ですが、ファンなら必読です。