こんにちは、寝袋!です。
私は日本人ですが、ネパールの人がよく口にする言葉「ビスターリ」が大好きです。
エベレスト街道など、ネパールに行くと必ずといっていいほど耳にするでしょう。
ビスターリの意味はシンプルですが、さすが山とともに行きているネパールの言葉です。
山登りを深く理解した、魂の言葉だと私は思います。
山はビスターリ、ビスターリね
ネパールへトレッキングなどで訪れると、シェルパなどに言われます。
ネパールの挨拶「ナマステ」の次くらいかな? とにかくよく耳にします。
彼らは日本語も少し出来るので、
「○○さん、山はビスターリね」
などと言われます。
ネパール語では、『बिस्तारी』と書きます。
ちなみにナマステは、『नमस्कार』ですが、まったく読めませんね
意味は「ゆっくりと」ですが
「ビスターリ」の意味は、日本語で「ゆっくり・のんびり」です。
つまり、
「山はゆっくりと行きましょう」
という意味ですね。
ネパールでは、ついつい次の景色、山頂、先を急ぎたがる外国人に、ガイドさんが優しく導く言葉です。
ネパール特有の生き様
ところが、日本人が山で「ゆっくり」と言うのと、ネパールの人が「ビスターリ」というのとは、雰囲気が違うんですよ。
そのあたり、私の考えを少し書かせてください。
わたしたち日本人には、「日本人にしかない感覚」、「日本人の生き方や生活様式から来る感覚」ってあるじゃないですか。
たとえば「わび・さび」です。
質素で静かなことのなかに、美を感じる感覚のこと。「わび・さび」を表す外国語はないそうです。
外国の方も、日本独自の「わび・さび」を理解してくれますし、美しい・いいものだと言ってくれます。
でも、外国の方が「this is わび・さび」と言って見せるものって、なんか違いますよね。
「ん? これじゃない」
とね。
同じように、日本人が「ゆっくり行こうよ」と言っても、もともと忙しい生活を送っていますから、なんだか無理があります。
「ゆっくり行くぞ!」と意識しないと、ゆっくりできないというのかなあ?
実際はつねに遅れていないか心配だったり、帰りの電車時間が頭の片隅にあったり・・・そんな感覚はありませんか?
ネパールの「ビスターリ」は、生き様から来る本当の「ゆっくり」なので、耳にする私たちの心に染み込んできますし、響くんですよ。
体から自然に力が抜けて、ホワ~ンとする感じ。
やさしい言葉です。
「ああ、これは『ゆっくり』じゃない、『ビスターリ』なんだな」
シェルパの登山感覚
ネパールの人々は、8000mをこえる山々のふもとで生活しています。
私達が最高でも富士山しかない国で、観光客にも登れそうな山しか知らないのに比べ、彼らは山の偉大さ・自然の偉大さを知っています。
「人間が焦ったって、登れるときは登れるし、登れないときは登れないのが山」
だから、無理しないんです。
「ベストを尽くすことと、結果は別だ」って、根っこの方で生まれつき理解しているかのようです。
「人事を尽くして天命を待つ」
というのでしょうか、泰然自若とした態度です。
日本人が急いだり焦ったりするのは、
「無理すれば登れるかも」
という程度にしか、山を理解していないからだと私は思うんです。
こういう山登りはいかが?
こう書いてきましたが、私も日本人ですし、しかもどちらかというと「せっかち」です。
だからこそ、計画するときから、実際に山を歩くときまで、
「ビスターリ、ビスターリ」
と自分に言い聞かせなければダメなんです。
昔は、コースタイムでなら3日で歩くところを、
「ここをちょっと頑張れば、2日で行けるんじゃない?」
などと、ついつい詰め込んで登山計画を立てていました。
そして、前しか見えず、ただ頑張って歩いて、残るのは達成感のようなものだけ。
「次はもっとゆっくり歩きたいな」
なんて言いますが、それなら最初からゆっくり行けばいいじゃないですか。
もったいないことをしていたと思います。
今、私が登山計画を立てるときは、
「プラス1日」
で計画を立てるようにしています。
4泊5日の縦走コースなら、5泊6日で計画を立てて、そこにさらに予備日を1日加えます。
そうすると、山で好きなところで休めますし、ゆとりが出るんですよ。
「今日はこの先まで行く予定だったけど、すごくキレイだから、ここでテント張っちゃおうかな?」
なんてね。
行けるコースは少なくなりますが、結果的にそのほうが満足感高いものなんですよ。
私は山の先輩に言われたことがあります。
「『あそこまで行かなきゃ』と思って歩いちゃいけないよ。『行きたいところまで歩いて寝ればいい』と思うように」
当時は、
「そんなこと言うけど、無限に日数があるわけじゃないぞ・・・?」
と不満でしたが、今思えば、それこそ「ビスターリ」の精神かもしれません。
「山はビスターリ、ビスターリね」
私は自分に言い聞かせながら、山を楽しんでいます。
いつか、言い聞かせなくても、自然に体に刻みつけたいと思う、そういうリズムです。