こんにちは、寝袋!です。
登山経験を積んできて、今では登山ガイドをしている私ですが、
「初心者の頃の自分に、これを教えてあげたい」
と思うことがたくさんあります。
それらを、当時の私の気持ちを振り返りながら、まとめていきます。
金言その7、
「道具を変えても、あなたの限界は伸びてませんよ」
というお話です。
これは、初心者だけではなく、私も含めすべての登山者が、いつでも陥りやすい間違いです。
目次
私が初心者の頃
ほとんどの登山者は、少しずつ山のグレードを上げ、経験を積んでいきます。
「この山が終わったら、次はあの山へ挑戦だ!」
新しいところへ挑むスリル、乗り越えたときの達成感は登山の魅力の1つです。
「日常では味わいにくい感覚」でしょうか。
限界を感じる時が来る
最初の頃は、けっこう順調にステップアップしていくことでしょう。
ご近所のかんたんな山から、行動時間が長めの山へ。
ゆっくり歩けるコースから、岩場などがあるコースへ。
夏の穏やかな山から、肌寒い季節の山へ。
「おお、案外自分もやれるな!」
と、充実した体力とやる気をバックに、楽しんでいけます。
人間は普段から歩いて生活していますから、山を歩くこともがんばれます。
案外勢いだけで、なんとかなってしまうんですよね。
しかしそのうち、少しずつ、
「このままじゃキツイかな?」
などと、限界を感じるものです。
「やっぱり北アルプスは、近所の1,000mとは違うな!」
「高い山って、こんなに天気変わるものなのか!」
「片道5時間、疲れが違うんですけど?」
っていう具合に。
私の体験①装備を変えるぞ!
「このままじゃダメだな」
と感じて、適当に揃えた装備から、ちゃんとした本格的な登山道具やウェアに、順次買い替えます。
これは大切なことですし、実際に良い道具を身につけると、快適に安全に山を登れるようになります。
でも、この成功体験が、のちのち登山者を勘違いさせるのです。
私の失敗談はいろいろありますが、今回は登山靴を例にお話します。
山を登り始めて、まだ1年くらいのころでしょうか。
北海道の後方羊蹄山(しりべしやま・ようていざん)を登りにいきました。
富士山のような整った形が印象的で、北海道の登山初心者が、目標にする山の1つだと思います。
その頃の私の登山靴は、柔らかいトレッキングシューズで、初心者でも歩きやすいものでした。
まだ雪渓が残っていたのですが、経験の少ない私は、ちょっと急なその雪渓を、ドキドキしながら登りました。
その時はよかったのですが、困ったのが帰りの下りです。
滑ったら下のヤブまで止まらないと思えました。(といってもたったの15mほど)
登りはつま先を蹴り込みやすかったのですが、下りはカカトを蹴り込むのが大変です。
とくに私の柔らかい靴では、うまく蹴り込めませんでした。
また、なんだか他の登山者に比べて、安定感もないように感じました。
なんとか冷や汗を垂らしながらクリアーできましたが、このとき私は思ったのです。
「もっと固くて登山靴じゃないと、ステップ切れないな」
「帰ったら買い換えよう」
今こうして書いていても、恥ずかしい限りです。
はっきり言って、私の歩く技術が未熟なだけなのですが、その後私は登山靴を重登山靴に変えました。
「これで雪渓も大丈夫!」
と思っていました。
次に急な雪渓と出会った時は、なんなくクリアーできました。
でもそれは、登山靴のおかげかというと、そうではなくて、
私の歩き方がちょっとはマシになったおかげ
だったと思います。
たぶん、どんな靴でも歩けたと思います。
私の経験②限界?限界じゃない?
もう一つ、私の失敗談というか、経験談をお話しますので聞いてください。
冬山の経験があまりなかった頃の話になります。
晩秋、北海道のある2,000m峰へ登ろうとしました。
もうすでに積雪がある時期でしたが、
「夏には以前登っているし、たいして苦労した記憶はない」
と考えていました。
下部の方は積雪5cmほどで、たいして苦労もしませんでした。
「雪の上を歩いているんだ」
という高揚感がありました。
冬山を経験していないときって、雪のある山を登るって、
「なんか一歩上級者へ近づいた気分」
で嬉しいものなんです。
さて、稜線近くまで上がると、積雪はやや増えて、30cmくらいになりました。
そして、この岩場に行き当たったのです。
「ああ、たしかこんな岩場はあった。でも、どうやって越えたっけ?」
と思い出せません。
そして、岩場には雪が積もっていて、手がかりが見えないのです。
「うーん、こまった。どうしよう?」
「岩場の雪をよけて、なんとか手がかりを見つけるか?」
それとも、
「このあたりで帰るのも手か?」
なんて悩みました。
他には登山者はいませんでしたし、不安な気持ちがありました。
「もし失敗したらどうしよう」
「行っていいものか? 帰るべきか?」
迷い出すと、どんどん不安な気持ちがかきたてられました。
速い流れの曇り空が恐ろしく見えてきましたし、風の音が
「帰れー帰れー」
と、気持ち悪く感じ始めたのです。
私は恐怖心に支配されていたのでしょう。
「よしっ帰ろう! それが正解だ!」
と私は下山して、その日の登山を3時間で終えてしまいました。
そして、下山してお風呂に入って、一息つくと、今度は悔しい気持ちが出てきました。
「もっと行けた! 限界まで頑張れなくて、限界の前に怖くて撤退してしまった」
という気持ちでしたね。
「頑張った結果じゃなくて、安易に撤退を決めてしまった」
この、情けな~い気持ち、わかりますか?
余りまくった体力が、余計に悲しかったのでした。
私があとで気付いたこと
その時の私にはわからなかったのですが、後から振り返ると、いろいろなことがわかります。
装備変更に意味はなかった
1つ目の登山靴のお話ですが、私が登山靴を買い替えた効果は、ほぼなかったと思います。
もちろん、いずれはもっと高い山・難しいコースに出かけるようになりましたので、登山靴はいずれ買い替える必要はありました。
ですから、無駄にはなりませんでした。
でも、登山靴を変えたから、雪渓を歩けるようになったというのは間違いなのです。
仮にもしあの時、かたい登山靴を履いていたとしたら・・・
結果は同じ。同じように歩くのが精一杯。
だったと思います。
それは、雪渓をうまく下りるコツや歩き方を知らなかったからです。
水は低いところから漏れます
2つ目の話の後日談ですが、私は帰ってからそのことを報告しました。
「いやあ、まだまだ行けたのに、情けないことに撤退しちゃったよ」
「限界に行ってないから、悔しいなあ」
というふうに。
そこで言われました。
「違うよ。あなたは限界だと思っていないけど、そこが今の限界ってことだよ」
胸に突き刺さりました。
そうか、そうかもしれない。
面と向かって言われて、悔しかったですね。
認めるのは嫌だけど、たしかにその人の言うとおりなんです。
登山ガイドからのアドバイス
限界とは?
登山の能力を、簡単な絵で描いてみました。
登山には、体力や気力や装備など、いろいろな要素があります。
そのなかで、一番低いところが『限界』なのです。
私は撤退した時、体力も装備もありましたが、知識か気力か、経験が低かったのです。
「体力あったのに、限界前に撤退してしまった」
というのが間違いなのです。
あのときの私の限界は、一番低い要素「(仮に)気力」の限界だったということです。
そう、私はあれが当時の私の限界でした。
ところで、上の絵の場合、新しく装備を買い替えたとして、限界はどこでしょう?
装備はさらに充実させても、体力がそのままでは、この人の限界は変わりません。
軽量化などで多少変化はあっても、効率的ではありませんね。
それなら・・・
低い体力をトレーニングで伸ばし、足りない知識を本で勉強すると、限界は一気にアップするのです。
高いお金を払って、装備を100g軽量化するなら、週1回ジョギングするほうが絶対効果あります。
おわかりでしょうか?
- 登山の限界は、いろいろな要素の一番低いところ
- 低いところを改善しましょう
ということなのです。
低いところからどんどん水が漏れてるのに、
低いところはそのままに、高いところをさらに高くする
ようなことは、してはいけません。
装備を買って限界が伸びるのは、
「体力気力は十分なんだけど、装備が貧弱で足をひっぱっている」
という人だけです。
偉そうに書いていますが、今でもついつい、私はそういう傾向にとらわれます。
「装備を変えたら、もっと上へ行ける!」
と、思っちゃう自分がいます。
私の限界は、常に「精神力」です。
装備に頼ってしまうのも、精神力の弱さなのかもしれません。
みなさんも一度、自分のことを見つめてみてはいかがでしょう。
そして、一番足りないところを鍛えて伸ばしてください。
それが、上達への近道だということは、間違いありません。
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かなりの登山経験を積んだ今になって、初心者の頃を振り返って思います。
「あの頃、これを知っていたら・・・」
登山について、お金も時間も無駄にしてきた私ですが、
「これから誰かの役に立てば、無駄じゃなかった」
と思えます。
初心者・初級者が同じ思いをしないために、恥を捨てて書きまくります。
最初から読んでみてください。
お役に立てれば幸いです。